いくら名工の鉋やノミであってもそれを研ぐ砥石や技術が悪ければ刃物本来の切れ味が発揮できない。かつて丹波や亀岡周辺の山は日本一の砥石の産地であったが今ではほとんどの鉱山が閉鎖され採掘している山はごくわずかになっている。
砥石には天然物と人造の物があり、最近ではセラミック製や研磨材を固めた人造の砥石が手ごろな値段で手に入る。天然物の高いものだと数万円から数十万円もするものもある。確かに天然物は粒子も細かく刃持ちも良いため職人に好まれるが、最近は人造でもすばらしい切れ味に研げるものも多く、普段の仕事にはまったく支障ない。また高い砥石だからといってよく研げるとは限らないのは鉋なども同じである。そのため砥石の専門店などでは買うまえに試し研ぎをさせてくれる店があるが、それでも実際現場で使ってみると切れ味がいまいちということもしばしば。砥石を買うときは半ば博打のようなものである。
私が入門したての頃はよく暇があれば「研ぎ物でもしとけ」と練習させてくれたり、悠長な時代であった。研ぎ物の練習をしているのをみて親方が「鷹の爪みたいに良く研げてるのお」と、よくほめてくれたが、今から思うと刃先が爪のように丸くなっているのを皮肉られているのであったか。