

不燃・耐火性に優れ、安易に加工できたことから「奇跡の鉱物」とよばれ、建材として使用されたアスベスト。しかしながらアスベストを含んだ粉じんを吸入・暴露したことから肺がんや中皮腫などの健康被害が続発し、2006年に原則使用禁止となりました。その被害者の多くを占めるのがわれわれ建設従事者です。
史上最大の公害ともいわれるアスベスト被害拡大の最大の責任は、石綿の危険性を知りつつ製造・販売を続け、利益を上げてきた建材製造企業と、企業の利益優先で労働者の健康を守るための規制を行わなかった国にあります。
2011年6月、京都地裁に11人の建設従事者と遺族が、国と建材メーカーを相手どり、謝罪と賠償を求める訴訟をおこしました。
追加提訴を経て27人の原告団となり、2016年1月、京都地裁判決では全国ではじめて国と建材メーカー両方の責任を認める画期的な勝利となりました。
2018年8月、同訴訟の控訴審で大阪高裁は、全国の建設アスベスト訴訟ではじめて一人親方を含む「全員救済」の全面勝利判決を言い渡しました。
敗訴した国と企業は、無情にも最高裁に上告しましたが、2021年5月17日、最高裁判所は、東京と神奈川、京都、大阪の4つの訴訟に対して国と建材メーカーの責任を認める判決を下しました。
最高裁判決の翌日、原告団は菅義偉首相(当時)から直接謝罪を受け、田村厚生労働大臣(当時)と和解金などの基本合意書に調印。長いたたかいに勝利しました。しかし、京都では1陣被災者25人中24人への責任が確定する中、「屋外従事者」に関しては救済が認められませんでした。
この最高裁判決を受けて2021年6月には「建設石綿給付金法」が成立。2011年の1陣提訴以来、訴訟の目的であった、訴訟に拠らずに保証する枠組みができました。また、後続訴訟の原告と和解をすすめるなど、国は不完全ながらも被害救済に歩みはじめています。
一方で、被害を引き起こした張本人の建材メーカーは、最高裁判決以降も全国各地で敗訴を重ねているにもかかわらず、少しでも自社の責任を軽減しようとして、被害者と争う姿勢を崩しません。こうした建材メーカーの頑なな姿勢に対し、東京高裁は東京1陣訴訟差戻審(2024年12月)や東京2陣訴訟(2025年1月)について、大阪高裁も大阪2・3陣訴訟(2025年2月)について、早期解決を迫る和解案を提示し、全面的終局解決への強い意欲を示しています。
被害の早期解決のためには、大阪高裁で闘っている2陣、京都地裁での3陣、4陣などの訴訟闘争と合わせて、建材メーカーを和解協議のテーブルに着かせ、また、被害救済制度の枠組みに参加させるための政治的な働きかけが重要になっています。
建設業に従事していた元労働者などの皆様が、石綿によって健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったからであるとして、損害賠償を請求している京都1陣建設アスベスト訴訟について、去る1月28日、最高裁は、国の上告受理申し立てを受理しないとの決定をしました。
これにより本訴訟については、国に責任があると認めた大阪高裁判決が確定しました。大変重く受け止めるとともに、国に責任があると認められた原告の皆様方に対して責任を感じ、深くお詫び申し上げます。
また、様々なご負担を抱えながら、日々の生活を送り、訴訟にも対応されてきたご苦労は、いかばかりかとお察し申し上げます。原告の皆様方には、重ねて、心からお詫び申し上げ、謝罪の気持ちをお伝えさせていただければと存じます。
厚生労働大臣 田村憲久