どの大工の腰袋にも必ず入っているものに「金槌」「げんのう」がある。片方がとがっているものを金槌、両方平たいものを(両口)玄能と言う。かなづちは金の槌でわかるのだが、げんのうとはなんぞやと調べてみると昔の僧侶の名前に由来するらしい。
その昔、那須(栃木県)に殺生石という毒を吐いて近寄る者を病にしたり殺したりする石があり人々に恐れられていた。その石を玄翁(げんのう)という和尚が大きな金槌で叩き割った偉業をたたえて、金槌を玄能とも呼ぶようになったという。
その玄能だが、よく見る片方の面は平ら、もう片方には丸みがつけてある。釘を打つ時まず平たいほうで打ち最後の数叩きを丸みのある面で打つと材に傷がつかないためである。玄能の頭(かしら)は普通「鋼=鉄」でできているが中にはステンレスなどのものもある。鋼より硬くてよさそうだが、釘を打つにはあまり硬すぎても打ちにくい。適度の硬さが必要なのだ。またその頭の重さや柄の長さ等も人によってこだわりがあり、柄を自分で削りだして作る大工も多い。見た目以上に大工の使う玄能はデリケートな道具なのである。