大工にとって新年の次にめでたいのは上棟(建前)である。地方によっても様々だが上棟には御幣(ごへい)を祭る。御幣というのは三尺くらいの板に両紙垂れをはさみ、扇子や水引で飾られた縁起物で、施主、施工者、建築日等を書き、工事の安全と家内の繁栄を祈願する。一般に京都の御幣にはおかめの面がつくが、この由来は次の故事による。
鎌倉時代、今の上京区にある千本釈迦堂を建立する折、当時洛中洛外に名の聞こえた名工・長井飛弾守高次という棟梁が工事をすることになったのだが、その際、信徒寄進の大切な四天柱の一本を誤って短く切り落としてしまった。
憂いの毎日を過ごす夫の姿を見かねた妻のお亀が「いっそ斗きょう(柱の上にある木組み)をほどこせば」という一言で高次は、みごと大堂の骨組みを完成させた。
しかし女の提言に頼り棟梁としての大任を果たしたということが世間にもれきこえてはという想いから、妻お亀は自害してしまった。高次は上棟の日、亡き妻の面を御幣に飾り、お亀の冥福と大堂の無事完成を祈ったといわれている。
そんな話にあやかって、次の建前にはうちのお亀の写真でも貼り付けてみようかな。